もしも明日、世界が終わるとしたら、どんな願い事をするだろう。
 あるいは、何も願わないかもしれない。望みを叶えるには一日では短過ぎるからと、いつも通りに過ごすかもしれない。それも一つの選択肢だろう。残りの人生が一日しかないと分かっていて、それでもなお、今までと変わらない日常を送れるのは、きっとすごいことだと思う。
 では、もしも明日、自分の一番大切な人の人生が終わるとしたら、どんな願い事をするだろう。
 その大切な人の命が消えてしまわないように、強く願うだろうか。
 あるいは、何も願わないだろうか。
 僕は、そのどちらも選ばなかった。どちらも選ぶことができたのに、選ばなかった。

「ねえ、もしあと一日で世界が終るとしたら、どうする?」
 不意に彼女が、そう言った。
 今まで一度も考えたことのない質問だったけれど、僕は迷いもせずに即答した。
「君と結婚するよ」
「じゃあ、あと一日で世界が終わらなかったとしたら、私たちは結婚できないのね」
「そんなことはないよ」
 冗談よ、と彼女がつぶやく。
「でもその場合、私たちの結婚生活って、一日だけしか持たないのかぁ」
「短い?」
「そうね。さすがにちょっと……でも、悪くないわ、そういうのも」
「そうだね。悪くないかもしれない」
 僕たちは黙った。黙って空を見上げた。
 明日世界が終わるとは到底思えないほど、空は青く澄んでいる。いや、実際に世界は明日終わらない。今のは、もしも、という話だ。実際にはほぼ百パーセント起こらないことだから、この話には特に意味はない。
 でも、彼女は唐突に切り出した。
「じゃあ、今すぐ結婚して」
「明日、世界は終わるのかい?」
「終わるわ。確実に」
「分かった。結婚しよう」
 なぜそう答えたのかは、自分にも分からない。終わるわけがないのだから、はっきりとそう言えば良いのに、僕はそうは言わなかった。もちろん、冗談半分で彼女の言葉につき合ったわけでもない。
 そして僕たちは、その場で結婚した。ウェディングケーキ入刀も指輪の交換もない、誓いのキスだけのささやかな式を挙げて。
 彼女が自殺したのは、その翌日のことだった。

 たぶん、僕にはこうなることが分かっていた。だから世界が終わるなんていう彼女の突拍子もない言葉を、信じたんだ。
 それなのに、僕は止めなかった。
 彼女と一緒にいるなら、終わった後の世界の方が良いと思ったからだ。
 終わった世界なら、一日と言わず、未来永劫、ずっと一緒にいられる。
 だから――。
 僕の世界も、明日、終わらせよう。