美女は野獣

 友人に、私なんかが逆立ちしても絶対に勝てないくらい、すごい美人の子がいる。その美貌は誰もが認めるところだと思うし、彼女自身、その自覚はあった。
 彼女は日を追うごとに美しくなる。数年前よりも今の方がずっと美人だ。女は恋をすると綺麗になると言うから、恋多き彼女はどんどん綺麗になるということなのか。まあ、美人の自覚はあるわけだから、きっとその美貌を保つためにたくさん努力しているのだろう。
 彼女の美しさに吸い寄せられた男性は数知れない。町中で男と一緒にいるところを時々見かけるが、隣にいるのはいつも違う男だった。大抵は私の知らない男だった。彼女が恋多き女性だと思われるゆえんである。彼女の交友範囲は広いから、私の知らないところで男に声をかけまくっているのだろう。
 ただ、私が人の外見を言えた義理ではないが、彼女が連れている男は、外見的に彼女とおよそ釣り合わなさそうな人ばかりだった。まさに美女と野獣と言うべきか、彼女だったらもっと良い男をいくらでも捕まえられそうなのに、あえてそういうタイプの人を選んでいるとしか思えなかった。私が男だったら、何であんな奴にあんな美人の彼女がいるんだと嫉妬せずにはいられないだろう。
 彼女がその手の外見の人を好む性格かと言われると、たぶんそんなことはない。一緒にテレビを見ていたりしても、世間的に見てかっこいい男の人に色めきだったりしているから、イケメンが嫌いなわけではないはずだ。
 疑問に思いつつも、彼女がどんな男とつき合おうがそれは彼女の自由だからと、特に真意を確かめることはしなかった。
 でもつい先日、私の知り合いの男の子――やはりお世辞にもイケメンとは言えない――が彼女とつき合っていたことが分かり、その子から話を聞いたおかげで、どうして彼女がそんなにレベルの高くない男とばかりつき合うのか、理由が分かった。
 つき合う男はみんな、彼女が自分にはもったいないくらいの美人だという意識がある。だから彼女に愛想を尽かされないよう、とにかく貢いでご機嫌を取るのだそうだ。私の知り合いの子も例外ではなかった。隣に彼女がいると自慢になる。そんなブランド感覚を味わうために、男たちは彼女にブランド品を貢いでいるわけだ。
 でも、そんなことはいつまでも続けられない。金持ちの御曹司ならともかく、私の知り合いも私に負けず劣らずの庶民だし、他の男もだいたいそうなのだろう。だからつき合って数ヶ月もすれば資金が枯渇し、精も根も尽き果ててしまう。甘い蜜を吸おうとすり寄って行った結果、逆に自分の方が搾り取られてしまうわけだ。
 彼女があえて野獣のような男とつき合っているのは、そっちの方が資金源になると思っているからなのだろう。そうやって得た資金を使って、彼女は自分の美しさに磨きをかける。だから彼女は日増しに綺麗になっていく。恋が彼女を綺麗にしていたのではなさそうだ。
 男たちは、自らのステータスのために彼女とつき合おうとする。彼女はそれを利用して、自らの美貌のために男を食い漁る。これが持ちつ持たれつと言えるのかどうかは私には分からないけれど、とりあえずこれだけは言える。
 どうやら、彼女もまた野獣だったようだ。

不確定性の産物

欲しいもの ≠ 必要なもの

走り続ける運命

プラスワン