涙が止まらない。
 別に悲しいわけじゃない。
 じゃあ嬉しいのか。
 確かに嬉しいという気持ちはある。
 でもこれは、嬉しいからと言って出る、いわゆる『嬉し涙』じゃないのは明白だ。
「すごい涙ね……大丈夫?」
「うん……」
「ごめんね、あたしのせいで」
「ううん、気にしないで」
 他ならぬ姉さんの為だ。
 両親が死んでから、ずっとお互い支え合って来た、唯一の肉親。僕に取っては、たった一つの拠り所と言える。
 そんな姉さんの役に立てるなら、どんな状況であっても喜ばしいに決まっている。たとえそれが命を投げ出すほどのことであったとしても、僕は喜んで自分の命を捧げるだけの覚悟はできている。
 ちょっと大袈裟かな。でも嘘じゃない。
 しかし、この状況でさすがに涙を流さないわけにはいかなかった。
「辛かったら交替しようか? あたしがお願いしちゃったのが悪いんだし」
「大丈夫だよ。何でもするって言ったのは僕の方なんだから」
「そう……でも無理しちゃダメよ。何もやることはそれ一つじゃないんだからね。他のことでもいいんだから」
「ありがとう。でも本当に大丈夫だから」
 姉さんは優しく微笑んで、くるりと背を向けた。
 みんなは、こういうの平気なんだろうか。
 こんなに涙を流すのは、僕だけなのか。
 それともこれは慣れてしまえばどうってことないものであって、僕は今日が初めてだからこんなにも涙が止まらないけど、次からは僕も平気になるんだろうか。
 何かコツがあるのかもしれない。
 後で姉さんに聞いてみよう。むしろ、最初に涙が出た時点で聞くべきだったかもしれない。姉さんにとってはすっかり慣れたものだから、何か知っているはずだ。
 なんて考え事をしているうちに作業が終わり、僕はエンドレス涙地獄から解放された。
「姉さん、玉ねぎ切り終わったよ」
「ありがと。じゃあそれを鍋に入れてくれる?」
 玉ねぎを切る作業は目が痛くて辛かったけど、姉さんと一緒に料理を作るのは楽しい。こんなことなら、もっと前から姉さんの料理を手伝うんだった。
 今夜は、いつもと一味違うシチューが出来上がりそうな予感がする。