酷いものだった。誰が見ても、強盗に入られたと一発で判断できるだろう。いや、もしかしたら中には、台風でも通ったのかと思う奴がいるかもしれない。
 とにかく、何処も彼処も荒らされていた。
 彼女も呆然としていた。
 僕も彼女と同じか、それ以上に呆然としていたに違いない。その証拠に、一体何から手をつけたら良いか、全く考えられなかった。
 部屋の片づけか。盗まれたものの確認か。警察への連絡か。
 一瞥した限りでは、何を盗られたかなんて分かりゃしない。
 片づけだって、そんな広い家じゃないとは言え、こうまで暴力的に荒らされていては、とても一晩では終わらない。
 溜息が二つ重なる。
 彼女が中へと進んで行く。靴は履いたまま。僕もその後に続いた。
 リビングに入るなり、彼女はしゃがんで床に落ちていた何かを拾った。
 フォトフレームに入った一枚の写真。
 彼女の隣にしゃがみ、一緒に眺める。
 腕を組んで並び立つ、一組の男女が写っている。タキシードとウェディングドレスのツーショット。一ヶ月後にこんな惨状の中に並んでしゃがむことになるなんて全く予想もしていない、幸せいっぱいの笑顔。
 そんな僕たちに割って入るように、フォトフレームのカバーにヒビが入っていた。
 彼女がもう一度溜息をつき、ゆっくりと立ち上がる。
 一言も交わすことなく、僕たちは部屋の中を見て回った。
 金目のものはだいたいやられていた。通帳も印鑑もなくなっていた。ちょっと奮発して彼女にあげたネックレスなんかも、何処にもなかった。デジカメやノートパソコンなんかも、軒並み盗られていた。冷蔵庫の中の食糧まで律儀に減っていた。
 泣きたい気分だった。でもそれは彼女も一緒だろう。僕がここで泣いたら、余計に彼女を疲れさせてしまう。だから泣かなかった。
 そっと彼女の様子を窺う。
 彼女も泣いていなかった。強がるように力なく笑い、もたれかかるように抱きついて来た。
 僕は自分の腕を、彼女の背中にそっと回した。
 確かに失った物はある。それは決して小さくないかもしれない。
 でも僕たち二人は、こうしてここにいる。手を延ばせば触れられるところにいる。抱きしめられる距離にいる。
 今はそれで十分だった。
 大丈夫。僕たちの幸せまでは、盗られていない。
 二人の仲には、ヒビなんて入っちゃいないのだから。