闇を生きるもの

 光は、好きじゃない。
 光を浴びると、勝手に体が反応してしまう。
 暗い方が好きだから、光の当たらない世界が好きだから、無意識に体が暗いところを求めてしまう。これは本能的なものだから、どうしようもない。
 当然、太陽の光も嫌いだ。日光浴を気持ち良いと思う心理は、絶対に理解出来ない。したくもない。
 そもそも、僕は目が見えない。光を感じることはできるけど、見ることはできない。別にそれが光を嫌いな理由というわけじゃないけども。
 もしも光を見ることができたなら、少しは考え方も変わるだろうか。光の当たる世界で生きたいと思うように、なるだろうか。
 分からない。
 もっとも、僕が光に限らず何かを見られるようになる日が来ることはないから、これは考えたところで無駄だ。
 僕は光が苦手。日の当たる場所に来てしまったら、何とかしてその場から逃げる。一生そうやって生きていくんだ。これは決定事項。
 僕の生みの親も、光は嫌いだった。だから僕と同じように、日の当たる場所に出た場合は暗い方へと逃げていた。僕の親の親も、おそらくはそうだった。そのまたさらに親も、きっとそうだったに違いない。
 だいたい、光の当たる世界は危険だ。僕の仲間で、うっかり日の当たる世界に出てしまったばっかりに命を落としてしまったやつは、数えられないほどいる。
 道路で車に轢かれて命を落としたやつもいた。灼熱の太陽の下でミイラになってしまったやつもいた。いずれも、僕の普段いるところでは絶対に起こり得ない事件だ。
 もちろん、日の当たらない世界にいたって、危険はつきまとう。僕の知る限りでは、いきなり鋭利な刃物に襲われて、真っ二つにされたやつがいた。事故、ではあるけど、あいつも残酷な目にあってしまったものだ。
 やむを得ず光の世界に出なければならないこともあるんだけど、とにかくその結果として、二度と帰って来られない世界へと旅立ってしまう場合も少なくない。
 そんなことを言っている間に、また光の当たる世界に出てしまったらしい。
 早く戻らなきゃ。

「あ、ミミズだ」
「ほんとだ。知ってる? ミミズがいる畑は作物がよく育つんだって」
「へえ。じゃあ僕たちが植えた野菜も、よく育つんだね」
 少年たちはしゃがみこんでじーっと、ひも状の生物が動く様を眺めていた。

悠久の放浪者

夢と現実と境界線

夢か現か