夢と現実と境界線

 夢と現実。両者は本来、はっきりと分かれている。
 人は、夢の中でこれは夢だと自覚することもあるし、現実の中でこれは現実なんだと強く認識することもある。
 果たしてそれは、本当に正しい認識なのだろうか。
 体の一部に刺激を受けても何も感じない。確かにそれは夢の中だからこそ起きることなのかもしれない。漫画などで見かける、頬をつねっても痛くないというあれだ。
 しかし、それはあくまでも漫画の中での話だ。いや、実際に夢の中だと痛みを何も感じない場合もあるのかもしれないが、少なくとも僕の場合、夢の中で頬をつねられても、普通に痛い。つまり僕は、外的な刺激による夢か現実かの判定はできないということだ。
 もちろん、痛みだけではない。物を食べれば夢の中でもちゃんと味があるし、匂いもある。痛み以外にも、何かが体に触れればその感触もある。
 僕の場合、夢の中でも現実の中でも基本的に起こることは変わらない。
 ならば僕は、どうやって今自分が夢を見ているのか現実を見ているのか判断すれば良いのだろうか。
 明らかに夢の中でしか起こりえない出来事が起きたとしても――例えば何の装備もつけずに自分の体が大空を自由に飛びまわっているとか――それが本当に夢であるという証明は、どうやってすれば良いのだろうか。
 もしかしたら、本来人間という生き物は自由自在に宙を舞うことができるものかもしれない。それが夢の中だとなぜか重力に逆らえない性質を持ってしまうのかもしれない。それが間違っていると、どうやって証明すれば良いのだろう。
 夢と現実。両者は本来、はっきりと分かれている。それは確かだろう。
 しかし、夢の中でこれは夢だと自覚することと、現実の中でこれは現実だと強く認識すること、あるいは夢の中でこれは現実なのではないかと思ってしまうことや現実の中でもしかしたらこれは夢なのではないかと思ってしまうことは、本質的には違いがない。結局のところ、何をもってして夢か現実かを判断する確かなものがないのだから。
 今僕が見ている光景は現実なのだろうか。それとも夢なのだろうか。
 考えれば考えるほど、夢と現実の境界がぼやけていく。
 今まで僕が現実だと思っていたものが実は夢なのかもしれない、夢だと思っていたものが実は現実なのかもしれない。僕には分からない。
 ただ、はっきりと言えることは――
 これが夢なら、早く醒めてほしい。
 これが現実なら、醒めない夢を見続けていたい。
 こっちには、自分の思い通りにいかないことが多すぎるから。

悠久の放浪者

闇を生きるもの

夢か現か