私は、小さい頃から泣いてばかりいた。
 私には家族がいなかった。
 それが原因で、クラスのみんなにいじめられた。
 だから、友達もできなかった。
 周りのみんなにいじめられるたびに泣いた。
 周りのみんなが家族で仲良くしているところを見て泣いた。
 夜、一人の寂しさに耐えられなくて泣いた。
 家族もいない、友達もいない。
 私は、いつも一人ぼっちだった。
 だから、一人ぼっちじゃないみんなが羨ましかった。みんなが羨ましくて、そして私だけが一人ぼっちだと思うと、また涙が出た。
 昔は、来る日も来る日も涙を流していたように思う。
 でも、いつの日からか、私は泣かなくなった。
 悲しいと思っても、辛いと思っても、涙が出なくなった。
 その内に、悲しい、辛いと思うことも無くなった。
 きっと、一生分の涙を、私はもう流してしまったのだろう。
 私の中にある涙は、すっかり涸れてしまったのだろう。
 だからきっと、心もこんなに渇いているのだと思う。心が渇いているから、涙も出ないし、悲しいとも思わなくなったに違いない。
 私の中にあったはずの全ての感情は、蒸発して消えてしまった。
 そして、私の心は乾き切ってしまった。
 それでも構わないと、私は思った。
 悲しいと思ったり、寂しいと思ったり、羨ましいと思ったり、そのたびに涙を流して、心を痛めなきゃいけないのなら、涙なんていらない。感情なんていらない。心も乾いたままで構わない。
 私は、人の形をしているだけのもの。まさに人形だ。
 人形は、涙を流さない。感情を持たない。
 だから、私は人形と同じ。
 誰かに大切に思われる分だけ、人形の方がマシかもしれない。私は、誰からも大切に思われないから。誰からも必要とされないから。

 大人になると、さすがにいじめられることはなくなった。みんな、私に普通に接してくれる。家族がいないという理由で敬遠されることもない。
 それでも、私の心は渇いたままだった。
 ある日、私に好きな人ができた。
 人を好きになることは初めてだったから、これが本当に好きという感情なのか分からなかったけど、この人と一緒にいると何となく落ち着く、もっと一緒にいたいと、そう思うようになった。
 感情なんて遠い昔に置いてきてしまったと思ったけど、まだ残っているものがあったみたい。
 ある日、その人からプレゼントをもらった。
 生まれて初めてのプレゼントだった。
「これは……?」
「開ければ分かるよ」
 それは、ネックレスだった。
「これを、私に……?」
「本当は指輪をプレゼントしようと思ったんだけど、まだちょっと早いかなって……」
 彼が、笑いながら頭を掻いた。
「嬉しい……ありがとう」
 泣いたのは、何年ぶりだろう。
 もう涙なんて、すっかり涸れていると思っていたのに。
 まだ、私は涙を流すことができたんだ。
 乾いた心が癒されていく。
 渇いた心が潤っていく。
 それは、今までの涙とは、違うものだった。

 私はもう大丈夫だ。
 これから先も、私は涙を流すことがあると思う。
 でもそれは、心に渇きを与える涙じゃない。
 心に潤いを与えてくれる涙。
 涙なんていらないとは、もう思わない。
 感情なんていらないとも、もう思わない。
 だって、私はもう、人形じゃないから。