異次元からの視線

「最近、視線を感じるんだよね……」
「ストーカーってやつかな?」
「う、うーん、どうなんだろう……?」
 由梨は腕を組んで首を傾げた。
「あんた可愛いからねえ。ストーカーの一人くらいいても、あたしは別に不思議に思わないけどなあ」
「別に私は……」
「ん? 可愛くないって? そんなことないよー。ほらほら」
 久美は由梨を抱き寄せて、髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。
「うわわ、止めてよ!」
 気にせず髪を掻き回す久美。由梨の髪が寝起きのようにボサボサになった。
「あうー、酷いよ久美ちゃん……」
「ごめんごめん。でもあんたのそういう沈んだ顔を見るの、好きじゃないからさ」
 由梨は髪を撫でつけながら久美を軽く睨んだ。
「で? その視線ってのは何? 一日中感じるの?」
「ううん、そんなことはないんだけど、でもいつもここに来ると、急に感じるの」
「まあ、その気になれば隠れるところなんていくらでもあるからなぁ……」
 久美は辺りを見回した。人影は見当たらない。
「それにね……何か一人じゃない気がするんだ」
「一人じゃない?」
「と言うか、一人のときもある、かな。何人もの視線を感じることもあるし」
「一人のときもあるし、何人のときもある……ね。なるほどなるほど」
 久美は何度もうなずいた。
「それなら気にしなくて大丈夫だよ」
「え?」
「そっかあ。あんたもこの視線を感じられるようになったのね」
「あんたもって……じゃあ、久美ちゃんも?」
「あたしは前にバイト先で感じたことがあるからね。もう慣れた」
「ストーカー……ではないの?」
「違うよ。この視線は違う」
「じゃあ一体……」
「まあ、何て言うか……神様みたいなもんだよ」
「か、神様?」
「そ。神様。だから心配しなくて良いよ」
「うーん、まあ、久美ちゃんがそう言うのなら……」
「そうそう。どーんと構えてなさい。その方が神様も喜ぶわ」
「久美ちゃんは、その神様って人に、会ったことあるの?」
「ううん、ないよ。と言うか、残念ながらあたしたちは、今あたし達を見ている神様には会えないんだ」
「どういうこと?」
「次元が違うって言えば良いのかな。向こうはあたしたちよりも一つ上の次元にいる人たちだから、会うことはできないの」
「ふーん……?」
 由梨はよく分かっていないようだ。別に分かる必要はないと思う。
 久美にしたって、視線の主がどんな人かは分かっているが、具体的に何処の誰なのかは分からない。どんなに頑張っても、それが分かる日は来ない。
 でも、それで良い。
 それが、登場人物と読者との、本来あるべき関係なのだから。

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