不確定性の産物

 億万長者になるために一番良い方法は、何だろう。
 人によっていろんな考えがあると思うが、俺の答えは至ってシンプルだ。
 未来が分かれば良い。
 競馬でも競艇でもカジノのルーレットでも何でも良い。大当たりしている未来が分かれば、一瞬で俺は大金持ちになれる。
 そして俺は、未来人探しを始めた。ただ未来人なだけじゃダメだ。ギャンブルに多少なりとも興味ある奴じゃないと、当たりが何なのか分からない。
 意外にも、俺の求める人間はあっさり見つかった。ギャンブルが好きで、ときどき競馬もやるという、うってつけの未来人が。
 俺は交渉を持ちかけた。
「なあ、何でも良い。未来の当たり馬券を教えてくれよ。もちろんタダとは言わねえ。配当金の半分をやる。悪い条件じゃないだろう? お前は俺に、万馬券が出るたびにその当たりを教える。それだけでお前も儲かり続けるんだ」
 ギャンブル好きな奴は大抵、楽に大金が入る方法には目がない。俺が良い例だ。
 しかし、そいつは素直には首を縦に振らなかった。
「教えるのは構わないけど、あんたには当てられないよ」
「あん? 何でだよ?」
「説明するのは面倒だな……そもそも、俺が説明したところで、あんたがそれを信じるとは思わない。俺にはそれを証拠として見せることができないから」
「よく分かんねえな。要は、協力する気がないってことか?」
「そうじゃない。正直、あんたの話は魅力的だ。でも、それを実現することはできないんだ。試しに一度やってみるかい? 外れても文句を言わないって条件で」
 どうにも要領を得ない。が、試しにやってみるという意見は願ったりだ。
「良いだろう。教えてくれ。いつのレースでも良い」
 俺はそいつから、当たり馬券の情報を得て、その日が来るのを待った。
 レース当日。どうせ当たるのが分かってるんだから大金を注ぎ込みたいところだが、あいつの言葉も気になる。だから五万円だけ買った。
 しかし、俺の買った馬券は外れた。
 俺はあいつを呼び出した。
「お前の言った通りに馬券を買ったら、お前の言った通りに外れたぞ。何で俺には当てられないんだ? お前は嘘を教えたのか?」
「文句は言わないって約束だろう?」
「俺は理由を知りたいだけだ」
 未来人は遠くを見つめて、
「あんたがその馬券を買ったから、外れたんだ」
「ああ?」
「未来が変わったんだよ。本来ならその三連単は当たりだった。でもそれは、あんたが買っていなかったからだ。この先、俺が当たりを教え、あんたがその馬券を買うたびに、未来は変わる。だからいくら買っても、その馬券が当たることはない。まあ、百パーセントではないけど」
「……世の中、そんなに上手くはできてねえんだな」
「誰でも一度は考えることだろう? 未来が分かれば楽に大金が手に入るってのは。特にあんたや俺みたいな奴は」
 先輩の言うことはよく聞くもんだと昔は散々言われたが、今初めてその言葉が身に沁みた。経験者は語るとは、よく言ったものだな。

美女は野獣

欲しいもの ≠ 必要なもの

走り続ける運命

プラスワン