新緑の出会い
春――。
それは新緑の季節。新たな出会いに恵まれる季節。
私にも、出会いがあった。
とても素敵な出会いだった。
その日、日が暮れるまでずっと、私達は一緒にいた。
次の日また会うことを約束して、私達は別れた。
その次の日、約束通りに私達は同じ場所で再会した。
更に次の日も、そのまた次の日も――。
穏やかで、和やかで、暖かくて。
緩やかに、幸せな時間が流れていく。
一緒にいる時にすることと言えば、背中を合わせてじっとしているだけ。
私も喋らない。相手も喋らない。小川のせせらぎよりも静かに、頬を撫でる空気よりもじっとしている。それでも目を閉じてじっとしていると、雲のベッドに寝ているような、ふわふわとした心地良い浮遊感に包まれる。
もちろんその日も、明日会う約束をして、別れた。
ところが、次の日は、大雨だった。
雨が降ったら会わないという約束はしていなかったけれど、私は家から出ずに、雨が止むのをじっと待っていた。
早く雨が止んでくれないかなと、私は空に祈り続けた。
祈りが届いたのか、夕方近くになって、雨はすっかり止んでくれた。
私は大急ぎで、いつもの場所に向かった。
泥が跳ねるのも構わずに、私は走った。
そして私達は、いつものように再会した。
ただ――
「雨で……全部落ちちゃったんだ……」
いつもと同じ光景は、そこにはなかった。
満開だった桜の花びらは、大雨のせいで、一つ残らず散ってしまっていた。
とても、寂しかった。
頬を、何かが伝う感触。
また、雨が降ってきたのだろうか。
私はそっと桜の木に触れた。
濡れている。
「あなたも、泣いているの?」
もう少しだけ、一緒にいたい。
桜も、そう思ってくれているだろうか。
私はしばらくの間、ピンク色の衣を失った寂しい背中に寄り添っていた。
いつもと同じように――。
「……来年も、会えるよね?」
返事はなかったけど、私には分かっている。
春――。
それは新緑の季節。新たな出会いに恵まれる季節。
来年になれば、新たな桜の花達が、私を出迎えてくれる。満開の、桜が。
その時、私は何て言おうかな。
ひさしぶり――か。
はじめまして――か。
でも、今言う言葉だけは、決まっている。
「またね」
夕日が優しく微笑んでいた。
それは新緑の季節。新たな出会いに恵まれる季節。
私にも、出会いがあった。
とても素敵な出会いだった。
その日、日が暮れるまでずっと、私達は一緒にいた。
次の日また会うことを約束して、私達は別れた。
その次の日、約束通りに私達は同じ場所で再会した。
更に次の日も、そのまた次の日も――。
穏やかで、和やかで、暖かくて。
緩やかに、幸せな時間が流れていく。
一緒にいる時にすることと言えば、背中を合わせてじっとしているだけ。
私も喋らない。相手も喋らない。小川のせせらぎよりも静かに、頬を撫でる空気よりもじっとしている。それでも目を閉じてじっとしていると、雲のベッドに寝ているような、ふわふわとした心地良い浮遊感に包まれる。
もちろんその日も、明日会う約束をして、別れた。
ところが、次の日は、大雨だった。
雨が降ったら会わないという約束はしていなかったけれど、私は家から出ずに、雨が止むのをじっと待っていた。
早く雨が止んでくれないかなと、私は空に祈り続けた。
祈りが届いたのか、夕方近くになって、雨はすっかり止んでくれた。
私は大急ぎで、いつもの場所に向かった。
泥が跳ねるのも構わずに、私は走った。
そして私達は、いつものように再会した。
ただ――
「雨で……全部落ちちゃったんだ……」
いつもと同じ光景は、そこにはなかった。
満開だった桜の花びらは、大雨のせいで、一つ残らず散ってしまっていた。
とても、寂しかった。
頬を、何かが伝う感触。
また、雨が降ってきたのだろうか。
私はそっと桜の木に触れた。
濡れている。
「あなたも、泣いているの?」
もう少しだけ、一緒にいたい。
桜も、そう思ってくれているだろうか。
私はしばらくの間、ピンク色の衣を失った寂しい背中に寄り添っていた。
いつもと同じように――。
「……来年も、会えるよね?」
返事はなかったけど、私には分かっている。
春――。
それは新緑の季節。新たな出会いに恵まれる季節。
来年になれば、新たな桜の花達が、私を出迎えてくれる。満開の、桜が。
その時、私は何て言おうかな。
ひさしぶり――か。
はじめまして――か。
でも、今言う言葉だけは、決まっている。
「またね」
夕日が優しく微笑んでいた。