夢か現か

 ある日、僕が公園に行くと、一匹の野良犬がいた。人懐っこい犬で、僕が手を差し出すと、何の警戒心も抱かずに寄ってきた。コンビニで買ったパンを半分あげて、僕たちは一緒に遊んだ。
 その日のうちに、僕はまたしても公園でその野良犬と遊んだ。同じようにコンビニで買ったパンを半分こして、同じように一緒に滑り台や砂場でたわむれた。楽しかったのは確かだけど、パンの味とかはよく分からなかった。
 朝になり、ああ、今のは夢だったんだなと分かった。昨日、一緒に遊んだのが楽しかったから、それが夢に出てきたんだと思う。パンの味が分からなかったのも、夢だからだ。
 またある日、僕は密かに想いを寄せている子とデートした。しかも向こうからのお誘いで。今までろくに話したこともなかったのに、どうしてこんなことが起きたのか不思議だった。彼女と手をつないでいるのにその感触が全くないのは、それだけ僕が浮かれているのか、もしかしたら夢なんじゃないかと思った。
 朝になり、やっぱり夢だったことが分かって、僕はがっかりした。その一方で、夢じゃなければあんなことになるわけがないと納得している自分もいた。
 ところがその日、僕は密かに想いを寄せている子からデートに誘われ、初めて女の子と二人きりで喫茶店に入った。夢で見た光景と全く一緒だった。今度は手を握った感触もちゃんとあった。
 その後も、昼間にあった出来事を晩にもう一度夢の中で繰り返したり、前の晩に見た夢と同じ出来事を昼間に繰り返したりという体験を何度もした。どうやら僕は、その日に起きることを事前に夢で見たり、その日あったことをもう一度夢で繰り返す性質の持ち主らしい。何でそんなことが起こるのかは僕自身にも分からない。毎晩そういう夢を見るわけじゃない。普段は現実と何の関係もない夢を見る。
 分かっているのは、だんだん夢の中でも五感が正確に刺激されるようになっているということだ。今では、内容が現実に関係ある夢だろうがない夢だろうが、食べたものの味も、何かに触れた感触も、音も匂いも、全て感じ取れる。夢なのか現実なのか、ときどき分からなくなってしまうくらいだ。
 そんなある日、僕は信号を歩いていた。すると向こうから大きなトラックが猛スピードで突っ込んできた。危ないというのは分かったけど、意思に反して僕の体はピクリとも動かず、僕はトラックにはねられた。
 とても痛かった。宙を舞っているとき、何だか自分の体が羽になったように軽く感じた。
 これは夢なんだろうか。それとも現実なんだろうか。夢だとしたら、これは現実に起こる夢なんだろうか。
 だんだん意識が遠のいてきた。
 夢だったら、次に見える光景は僕の部屋の天井だ。天井が見えたら、今日は学校を休んで一日家にいよう。万が一夢と同じ出来事が起こっても嫌だから。
 僕はゆっくりと目を閉じた。

悠久の放浪者

夢と現実と境界線

闇を生きるもの