もしも僕がこの時代に生まれていたら、どうやって字を考えていただろうか

おまとめ三行

同じ形の文字が3つあります
それくらいへでもねーよ
一応の違いはあるようです
ひらがなとカタカナで同じ形の文字が3つあります。1つは「へ」ですが残りの2つは何でしょう?



というクイズをたまに見かけることがあるのですが……考えてみたら、どうして「へ」はひらがなとカタカナで同じ文字にしたんでしょうね。ひらがなやカタカナを考えた人はどうしても思いつかなかったのかな。

ひらがなやカタカナが生まれたのは奈良時代から平安時代の頃だと言われています。それまでは漢字しかなかったので、「おっぱい」のようなひらがなで書くといかにも柔らかい感じが伝わりそうな単語に対しても漢字を使っていたわけですね。そういやおっぱいって漢字はあるのかな? まあ、たぶん平安時代の頃はおっぱいという単語自体が存在していなかったと思うので、そこは乳的な字を使って表現していたのではないかと思われます。

そういやずっと前におっぱいの語源について書きつづったことがあったな。
ブーバッパイ効果

俺は定期的にこの手の記事を書かずにはいられない人間のようだ……。

あ、ちなみにクイズの答えは「べ」と「ペ」です。




話がそれちゃいましたが、ともあれ起源としてはひらがなよりも漢字の方が実は先で、ひらがなやカタカナは漢字を元に作られましたというお話です。大半の人は漢字よりも先にひらがなを覚えると思うから、ひらがなの方が先だったんじゃないって思いたくなる人も中にはいると思うんですけどね。僕もそうでした。初めてひらがなやカタカナは漢字から生まれたという話を聞いた時、「漢字の方が複雑だから作るの難しそうだし、後世になってから作られたんじゃないのか?」「漢字が中国から伝わるまではひらがなを使ってたんじゃないかな?」とかちょっと思ってた。ほら、科学技術なんかもそうだけど、たいていは難しい技術の方が後に生まれるでしょ? ゲーム機もファミコンよりプレステの方が作りが複雑……だよね? たぶんそうだよね。

例えばひらがなの「あ」は「安」という字から生まれました。確かにそう言われると、この二つって見た目が結構似てるよね。ちなみにカタカナの「ア」は「阿」の左側のこざとへんが元になっています。これも確かに、そう言われると似ている気がする。

他にも「い」は「以」、「イ」は「伊」のにんべん、「う」は「宇」、「ウ」は「宇」のうかんむりというように、ひらがなは漢字全体から、カタカナは漢字の一部から作られていることが多いようです。うとウは同じ字を起源としているからなのか、ひらがなとカタカナで字が似ていますね。「か」と「カ」もわりと似ていますが起源は同じ「加」の字です。

もっとも起源が同じ字なら必ず似るのかと言われるとそんなこともなく、例えば「く」と「ク」はそこまで似ていないように見えますが、起源はどちらも「久」です。「せ」と「セ」も「世」で同じ。まあ「せ」と「セ」はわりと似ているか。

このように同じ字を起源とする文字も多いんですが、別にひらがなとカタカナで同じ漢字を起源とするみたいな縛りはなかったと思われます。全然違う字から作られているパターンもありますからね。「す」と「ス」なんて「寸」と「須」ですからね。「は」と「ハ」も「波」と「八」です。カタカナの「ハ」の起源が「八」なのは何となく予想がつきそうだね。でも「ス」は「須」の右下の部分から作られているらしい。須の右下って……もはやそっちもハじゃん。

まあとにかくだ。別に同じ漢字でなくても良かったのであれば、なおさら「へ」をひらがなと漢字で同じにする必要はなかったんじゃないのか? と思わなくもないですね。

上の表を見る限り、へはひらがなもカタカナも「部」という字から作られているようですね。カタカナの方は右半分のおおざとが元になっているようですが……絶対にもっと他の字あったよね。だっておおざとってこざとへんとほぼ一緒じゃん。もしアを先に作ったのだとしたら「部」が出てきた時点で「あ、やべ、このままじゃ阿とほとんど同じだな。何か別の字にするか」って思えそうじゃん。

もしかしたらアとヘを担当したのは別の人だったのかもしれないですね。そして偶然二人は阿と部を語源に選び、しかしデザインセンス的なものに違いがあったおかげで、一人はこざとへんからアという形が思いつき、もう一人はおおざとからへという形を思いついた。

ついでに言うと、カタカナのへを担当した人はひらがなのことをよく知らなかったのかもしれない。ひらがな担当の人はさらに別にいて(そもそもひらがなとカタカナが完全に同時期に作られたわけでもないだろうしね)、その人もたまたま部という字からひらがなのへを思いついた。その運命のイタズラのような思考のシンクロによって、偶然にも二つの字は同じものになってしまった。

そして上がってきた文字をチェックする人たちが「あれ? この二つ、元が似ているな。まあでも違う形になっているし、判別はつくからいっか」という判断をしたのかもしれない。しかしその後、ひらがなと見比べた時に気づくわけよ。「んん? おい、よく見たらへだけひらがなとカタカナで一緒じゃねーか」って。

でも同時にこんな話し合いも行われたんでしょう。

「おい、どうする。もう納期ギリギリだぜ。今からへだけ別の文字に作り直してもらうか?」

「別にいいんじゃね? ひらがなとカタカナがやたらと混在するような、新聞を切り抜いて作った脅迫状みたいな文章なんて普通書かないだろうし」

「そうだな。そもそもこの時代にはまだそんなものないし」

「じゃあ同じでもいっか。前後の文からひらがなかカタカナか判別してもらえば」

「そうそう。それくらいへでもねーよ」

みたいなのが。

考えてみれば、僕もへがひらがなとカタカナで同じだからという理由で不便を感じたことはたぶんないですしね。

でももしもこの先、ひらがな、カタカナに次ぐ第三の文字種ができるのだとしたら、その時はきっとへも別の形になるんじゃないでしょうか。それか逆にへが同じ形という伝統を守りたいという理由であえて同じ形にするのか……。






ちなみに。

厳密に言うならば、ひらがなのへとカタカナのヘは完全に同じというわけでもないみたいです。試しにひらがなとカタカナを交互に表示してみましょう。

へとヘ

どうでしょうか? カタカナのへは線がまっすぐなのに対し、ひらがなのへは少しだけ内側にへこむような感じになっています。コンピュータのフォントとしてあえて分けているだけで、大昔に作った人たちは全く同じとしていたかもしれませんけど、こうして見る限りでは一応の違いはあるようです。